v320 近くを通過する

■近くを通過する

今年の1月20日(土)。オホーツク海へ車を走らせていました。
山中のかなり高所の長い陸橋の上、前には大型トラック。前方が見えにくい、高所、雪道の怖い道路です。
スピードは出せません。時速40kmほど。ゆっくりと流れる景色。

そこに、前のトラックの陰から、橋の左の欄干に何か大きな塊が見えました。距離にして20mくらい。人間の子供くらいの茶色の塊。下は谷底であり、それが何か生き物であるように思え、頭の中は一瞬真っ白になりました。茶色の巨大な物体が橋の欄干に乗っかっている。バランスを崩せば落ちる。いや、彫像かもしれない。オブジェか。一体なんだろう。

それは異様に大きなワシでした。おそらくオオワシ。

まるでトトロのように丸々としていていました。それにゆっくりと近づき、車の横まで来て、私は横目でチラチラ見ながら「うわーうわー」と叫びまくるのでした。それはスローモーションのように至近距離を通り過ぎて行きました。

前方のでかいトラックが通り過ぎても、そのでかい猛禽類は悠々と橋の欄干で休んでいたのです。

そして数秒後に、「しまったーーっ!! 」と思いました。
「撮れなかったーっ!!」と叫んでいました。

カメラは常にハンドルの前のスペースに、滑り止めシートの上に置いてあり、いつでも瞬時にシャッターが切れるように準備してあるのです。ちょっと危ないようですが、もう何度も何度もシャッターを切って慣れているので、車の走行がヨレヨレになることはありません。

でも瞬時に判断してシャッターに手を伸ばすことはできなかったと思います。衝撃が大き過ぎた。状況を認識した時にはすでに遅かった。この2度とないチャンスを逃した悔しさは、何日経ってもずっと続いていました。

3月31日、遠軽から安国に向かう裏道を通っていた時、あれから2か月も経っているのに、
「オオワシの件は悔しかったなぁ、なんか出てこないかな」とつぶやいて運転していました。
「キツネでも鹿でも、リスでもハクビシンでもなんでもいいからさー」
なんて言っていた直後、視界の右、何かでかいものが地面から飛び立ち、車の前を横切りました。トンビでした。

トンビはどこにでもいて珍しくもないですが、車のフロントガラスから2メートルくらいの至近距離を、1メートルくらいのものがバッサバッサと通過するその姿は迫力いっぱいで、「うわー、すげー、うわー、かっこええー」と叫んでしまうのでした。

そして数秒後に、「しまったーーっ!! 」と思いました。
「撮れなかったーっ!!」と叫んでいました。

デジャヴ。

4月21日、阿寒国立公園の山の道、「何か飛び出して来たら大変だからゆっくり走る」とか言ってた時に、道の右脇からふさふさの綺麗なキツネが現れ、トコトコトコと車の前を横切りました。近かったので、もちろんブレーキをかけます。その時、後ろに車が接近していて、イヤな感じだったのです。シャッターに手を伸ばしたくても後続車が気になって出来ませんでした。

「撮れなかったーっ!!」と叫んでいました。

撮れなかったデジャヴ。

でもキツネは頻繁に出てくるため価値は暴落しており、ショックはありませんでした。

同日。「もうこうなったら鹿とかリスとかエゾモモンガとかクマゲラとか出てこないかなー」と言ってしばらくすると、今度は左脇から鹿が現れました。

飛び出す前に目があって、ピョンと出てきました。レンズの関係で遠くに見えますが相当近いです。

「おー、本当に出てくるか。すごいなシカし、鹿だけに」
とか言いつつ、なんか言ったら出てくるなぁ、と思い、「願えば叶う宗教」のような気分になったのでした。そして、期待を込めてこう言いました。

「UFOとか出てこないかなー」

続く。


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